Appleの新製品「AirPods 4」(外部リンク)には、「アクティブノイズキャンセリング機能」を搭載するモデルが存在します。このノイキャンモデルに採用されているのが、AIアルゴリズムを活用する「H2チップ」です。

ANCという略語で表されることもあるアクティブノイズキャンセリングには、AIのアルゴリズムを活用しながらリアルタイムで周囲の音を分析し、ノイズの種類やパターンを理解して「ノイズを低減する」技術も含まれます。

今回は、アルゴリズムを司るAIの進化と共に性能を著しく高めている「アクティブノイズキャンセリング(ANC)」について、主要な採用メーカーを見ながら、その仕組みや未来について、AIと一緒に考察していきます。

アクティブノイスキャンセリングの仕組みと主要な採用企業、ANCの未来についてAIと一緒に考察

ノイズキャンセリングの仕組み

パッシブとアクティブ

ノイズキャンセリングは雑音を低減・除去する技術で、「パッシブ」と「アクティブ」の2種類に分かれます。パッシブはイヤーパッドや密閉構造で物理的に音を遮断し、アクティブはデジタル技術を駆使してノイズを打ち消します。

今回のテーマである「アクティブノイズキャンセリング（ANC）」は、驚くほど巧妙な技術です。ヘッドホンやイヤホンに内蔵されたマイクが周囲のノイズを捉え、そのノイズと正反対の「逆の音波」を瞬時に作り出します。

この「逆の音波」を元のノイズに重ね合わせることで音波同士が打ち消し合い、結果としてノイズが消えるのです。たとえば、カフェのざわめきや電車内の走行音などを大幅に軽減し、リスナーに「静かな音楽体験」を提供します。

AIの力でアクティブノイズリダクションが劇的に進化

AIを活用した最新のANC技術は、この「打ち消す効果」を一層高めています。AIは、飛行機のエンジン音、街中の雑踏、風の音など多彩なノイズパターンを学習して、リアルタイムで最適なノイズキャンセリングを施せるのです。

AI駆動のANCは、従来のANCでは難しかった「不規則なノイズ」にも対応可能で、突発的な犬の吠え声や工事音も効果的に低減します。この進化によって、どんな環境でも快適なリスニング体験が得られるようになりました。

真摯な音楽リスナーにはあまり受け入れられなかったアクティブノイズリダクションは、AIのアルゴリズムによって劇的な進化を遂げ、音楽のみならず会話中の音声聞き取りなど、あらゆる場面でその効果を発揮しているのです。

高度なANC技術を採用している世界の主要企業

近年はAIを活用した「高品質なANC機能」が実現しており、オーディオ分野で製品を展開しているメーカーが積極的に搭載しています。ここではANCを採用する代表的な企業をピックアップしますので、一緒に見ていきましょう。

Apple (AirPodsシリーズ)

Apple(アップル)が初めてANC機能を打ち出したAirPods製品を発表したのは2019年のことで、初代AirPods Proの「H1」チップで実現しました。この機能は、AirPods Pro 2とAirPods Max、AirPods 4の一部に引き継がれています。

Apple独自のチップ「H」シリーズのANC機能はオーディオ再生に留まらず、声の成分を分離することで「通話音声品質」を向上させます。低音域に分類される環境音の低減が得意で、必要に応じて外部音の取り込みも可能です。

最新製品を見た場合、H2チップを内蔵するAirPods 4はオープンイヤー型のデザインのため、シリコンイヤーチップによる密閉(パッシブ)を同時に行うAirPods Pro 2(H2搭載)と比べた場合、ANCの効果はやや劣ります。

ただ、オープンイヤーデザインでANCを実現した点は素晴らしく、飛行機のエンジン音、交通音、エアコンのハム音などを効果的に低減するANC搭載型AirPods 4は「ノイズ低減が驚くほど効果的」と評価されています。

H2チップは、独自アルゴリズムで格段にスマートなノイズキャンセリングを届けるだけではなく、「圧倒的な3Dサウンド」でユーザーを包み込む、またはバッテリーを一段と長持ちさせるなど、多方面で活躍する半導体です。

ユーザーの「聴覚」を保護するための取り組み

Appleは、ANC機能をユーザーの「聴覚保護」にも応用しています。H2チップは騒音を検知しながら毎秒4万8千回ノイズを軽減できる仕組みで、これによって大きな騒音に晒されるユーザーを守ることもできるのです。

また、アメリカ人の成人80%が5年以内に検査を受けていない「難聴」問題については、アプリで簡易的なヒアリングチェックを行うことができ、さらに本体に補聴器的な役割も与えるなど、聴覚保護を意識した設計思想が光ります。

AppleWatchもユーザーの「健康」を管理する設計になっていますが、AirPodsシリーズを単なるイヤホンにするのではなく、最新テクノロジーで聴覚の健康を促進しているところに、Appleのこだわりが感じられますね。

Sony (WH-1000X M6)

ソニーは1992年、世界初の民生用ノイズキャンセリングヘッドホンを発売した長い歴史を持ちます。そんなソニーの新製品ワイヤレスヘッドホン「WH-1000X M6」も、高度なANC機能を実現している人気モデルです。

ソニーのヘッドホンで飛躍的なノイズキャンセリングが可能になったのは2022年で、2023年にはAIを用いた通話品質の向上を実現し、2025年のM6は7年ぶりに新たなノイズキャンセリングプロセッサーを実装しました。

新たに開発されたノイズキャンセリングプロセッサー「QN3」は、旧モデルの7倍以上の処理速度を実現。12個のマイクを使ったマルチノイズセンサーテクノロジーで、騒音や装着状態の解析精度が飛躍的に向上しています。

QN3に搭載されている「アダプティブNCオプティマイザー」は、1000Xシリーズ最高レベルの精度を誇り、騒音・気圧・装着状態をリアルタイムで解析。「最適なノイズキャンセリング環境」を提供できる点が特徴です。

Sennheiser (MOMENTUM 4 Wireless)

75年以上の歴史を持つドイツのオーディオメーカー「Sennheiser(ゼンハイザー)」は、MOMENTUM(モメンタム)シリーズの最新モデル「MOMENTUM 4 Wireless」で、独自のANC機能をさらに強化しています。

周囲の騒音に合わせて搭載チップがノイズキャンセリング機能を自動調整する「アダプティブノイズキャンセリング」が特徴で、外出時の音楽鑑賞がさらに楽しくなります。外音取り込みの「トランスペアレントモード」も魅力です。

ヘッドホンを外すと自動停止、装着すると自動再生するスマートポーズ機能もあり、通話時にノイズとなる風音は自動で低減。SiriやGoogle Assistantなどの音声アシスタントにも簡単にアクセスできるようになっています。

アクティブノイズキャンセリングの未来

これらの企業が生み出したANC機能に共通している点は、「多彩な環境音への対応」をスムーズに実現していることで、AIのアルゴリズム進化に伴い、以前のANCでは難しかった「シーン別の利用」も容易になっています。

各企業がそれぞれ独自にANC機能の開発を進めているため、並べて性能を比較することは非常に難しいのですが、今後AIが順当に進化を遂げることによって、より高性能なANC機能が登場するのは間違いないでしょう。

そしてAIの進化は、現在のANC機能をさらに洗練されたものにするだけでなく、よりパーソナライズされたリスニング体験を実現する可能性を秘めています。個人の体調や身体の特徴、環境に適応できるリスニング体験です。

こうした動きをいち早く実現したのがAppleで、ヘッドホンやイヤホンを「音を聴くための装置」として再定義したのではないかと推測されます。この流れは、多かれ少なかれ業界に影響を与えることになるでしょう。

AIは多彩な分野で「これまでになかった恩恵」をもたらす可能性があり、それはノイズキャンセリングの分野でも大いに発揮されています。2022年頃からANC性能が劇的に進化したのは、AIの発達とも付合します。

まとめ

物理的な解決法「パッシブ」と、デジタル的な解決法「アクティブ」に分かれるノイズキャンセリングは、AIアルゴリズムの進化でアクティブ技術が飛躍的な性能向上を果たしました。主要メーカーはその最前線を走っています。

その一方でAI自身は、ANC機能が非搭載の製品も十分な需要を保つだろうと考えています。これらの製品群は、こと音質にこだわるオーディオ愛好家にとって、引き続き魅力的な選択肢となっていくそうです。

オーディオマニアは、AIのプロファイリングやデジタル補正を必要としない「ピュアなアナログサウンド」を好む傾向があるというのがAIの推察で、これには私も共感します。アナログとデジタルは両立すべきだと思うからです。

ANC機能を持たない分、適切なイヤーピースに交換するなど、非搭載モデルではユーザーが「パッシブ」ノイズリダクションを工夫する必要がありますが、未来においてもANC非搭載モデルには存在価値があるはずです。

私はJVCのWoodシリーズを愛用しています。振動板やハウジングに「木材」を使用している点が特徴で、職人魂が込められた製品です。所有モデルはANC機能非搭載ですが、素晴らしい音色がその難を補ってくれます。

ANC機能が本当に自分にとって必要かどうか、普段の利用シーンを想像しながら製品を選んでいけば、満足できる買い物になるでしょう。あなたが選ぶイヤホンやヘッドホンは、どのモデルになるのでしょうか？