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AIと考えるラウドネス・ウォーの現在と未来(前編)

AIと考えるラウドネス・ウォーの現在と未来(前編) AIと音楽
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ソルティ
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音圧戦争(ラウドネス・ウォー)について教えて下さい。

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この現象はCDやデジタル音楽時代に顕著になり、音楽がラジオやストリーミングで再生される際に、他の曲よりも大きく聞こえることを目的として行われてきた歴史を持ちます。

UKロックバンド「Oasis(オアシス)」(外部サイト)の再結成で世間が盛り上がっている今、彼らの名前を聞いて思い出すのが、1990年代から2000年代にかけて加速度を飛躍的に高めていった「音圧戦争(ラウドネス・ウォー)」です。

oasisのアルバム
Copyright Sony Music Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved. 

この時代にリリースされたロックやポップスの洋楽アルバムは音圧が高いマスタリングになっていることが多く、常に0db(デシベル)付近に波形が漂う「海苔波形」になっている点が特徴で、再生すると非常にうるさく聴こえます。

これらのアルバムは一般的に「ラウドネス・ウォーの犠牲者」と呼ばれ、例としてOasisの『What’s the Story) Morning Glory?』や、Red Hot Chili Peppersの『Carifornication』、Metallicaの『Death Magnetic』などが挙げられます。

「Carifornication」と「Death Magnetic」のアルバムカバー
©Warner Music Japan Inc.© METALLICA.© BLACKENED RECORDING.

今回のテーマはラウドネス・ウォーで、前編と後編の二本立てです。前編で音圧戦争が起こった背景とその危険性をAIと一緒に考察し、後半で音声編集ソフトを用いた解決策とAIが考える「音圧戦争の未来」に迫っていきます。

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それでは早速見ていきましょう!

「ラウドネス・ウォー(音圧戦争)」の成り立ちと現代までの流れ、その問題点をAIと一緒に考察

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ラウドネス・ウォー(音圧戦争)の始まりと現代までの流れ

1940年代〜1970年代:音圧競争の萌芽と技術的発展

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レコードやラジオが音楽の主要な配信手段だったこの時期、音量が大きいアナログレコードは、ラジオ番組やジュークボックスで非常に目立つ傾向がありました。

音圧戦争のきっかけと言えるムーブメントは、レコード会社「Motown」のシングル盤に遡ります。当時のエンジニアは、アナログレコードの物理的制約(溝の幅や再生機器の限界)の中で、可能な限り音量を上げる工夫を施して世に送り出したのです。

1940年代のジュークボックスのイメージ画像
Soraによるイメージ画像

この時期にはコンプレッサーやリミッターといった音楽エンジニア向けのツールが広く普及しており、「大きな音がするレコード盤」を生み出す競争が加熱する中で、”音圧を制御する技術”も同時に発展していきます。

モータウン・スタジオAの画像
1959年から1972年まで稼働していたモータウン・スタジオA。© 2025 – Hour Detroit Magazine.

一聴して音が大きいレコードには絶大なインパクトがあり、リスナーの注意も惹きつけやすくなるため、ポップスやロック、ソウルなどのアーティストを抱えるレコード会社は軒並み大音量の再生を目指し、それが戦争状態に発展しました。

アナログレコードは、音が極端に大きいとレコード針が溝に追従できずに飛んでしまうという物理的な制約を持つため、音圧が高いと言っても”一定の限度”がありました。しかしその限度は、デジタル化によって打ち破られていくのです。

ソルティ
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70年以上も前から音圧戦争の序曲は始まっていたのですね。

1980年代〜2000年代:デジタル化に伴うラウドネス・ウォーの本格化

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CD(コンパクトディスク)の登場によって、録音された音源のダイナミックレンジが理論上拡大(最大96dB)した一方、技術面が磨かれて商業的な音圧戦争は激化の一途を辿っていきます。

CDの誕生は、これまで音楽媒体として主流だったアナログレコードとカセットの勢力地図を大きく塗り替えることになります。そしてダウンロード音源が誕生し、デジタル化された音楽は「コントロールできる存在」になっていくのです。

「FabFilter Pro-L2」のインターフェース
© 2002-2025 FabFilter. All rights reserved.

この時代になると、高性能なデジタルオーディオワークステーション(DAW)やデジタルリミッターの普及によって、元の録音を弄って音圧を極限まで高めるマスタリングが可能になりました。この技術が音圧戦争に拍車をかけていきます。

デジタルデータを自由に改変できるということは、リマスターの段階で「豊かなダイナミックレンジを保有する音源」を「海苔音源」に変貌させられることと同義で、音圧戦争の魔の手は過去の名作アルバムにまで伸びていきました。

ABBAのメンバー写真
© Polar Music International AB.

ABBAのアルバムは、リマスタリングで元の豊かなダイナミックレンジが失われていった好事例で、他にも著名なアーティストの楽曲が軒並み低いダイナミックレンジで再発されていきます。これは音楽に起こった悲劇と言えるでしょう。

音が大きいアルバムや楽曲は目立つ、という音圧戦争の根源にある理論は、波形の編集が容易になったデジタル化時代に悪化の一途を辿ります。徐々に聴覚を蝕まれていった熱心な音楽ファンが、一番の犠牲者と言えるかもしれません。

ソルティ
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当時はあまり感じませんでしたが、業界全体が音圧戦争に侵食された時期でした。

2000年代後半〜現在:ついに問題視された音圧戦争と業界の動き

2008年には、ついにCDの収録限界である「0db」の壁を超えた音量を持つMetallicaのアルバム「Death Magnetic」が発売され、随所で聴くに堪えない音割れが発生する音源に対して、ファンや専門家から大きな批判が巻き起こりました。

Metallicaのメンバー写真
© Metallica.© Blackened Recordings.

Metallica以前にも0dbに届く、あるいは一部で突破(クリッピング)していたCDやデジタル音源はありましたが、このアルバムは過度に上げられた音圧を世界に問題視させる大きなきっかけとなり、ついに業界で見直しの動きが出始めます。

2010年代初頭には、SpotifyやYouTubeなどのプラットフォームが「ラウドネス・ノーマライゼーション(音量正規化)」を導入。これによって、音圧の高い楽曲は自動的に音量を下げられるようになり、音圧戦争の意味合いが薄れました。

ソニースタジオの様子
© Sony Music Solutions Inc.

つまり、どれだけ高い音圧で録音された音源であっても、ストリーミング再生時に自動的にボリュームが下げられてしまうため、そもそも海苔音源を制作すること自体が無意味になったのです。これは画期的な取り組みと言えるでしょう。

現在のストリーミングサービス(Spotify, Apple Musicなど)はLUFS基準を採用しており、音圧戦争はほぼ終息を見ましたが、特定の音楽ジャンルでは依然として音圧を重視する傾向が残っており、完全に無くなったわけではありません。

ソルティ
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音圧至上主義への批判が、音楽業界全体に見直しを促すきっかけになったのですね。

音圧戦争は何が悪い?

「ラウドネス・ウォーの犠牲者」が生むリスニングへの悪影響

ソルティ
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0db付近まで絶え間なく音が詰め込まれた音源にはどのような悪影響が生まれますか?

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代表的な悪影響は、「音楽が単調になる」「長時間聴くと疲れる」「音質が犠牲になる」の3点です

ダイナミックレンジが広い音楽は、各楽器のアンサンブルを空気感と一緒に伝えます。ところが反対にダイナミックレンジが狭いと、全ての音の主張が激しくなり、微妙なニュアンスが失われ、結果的に音楽そのものが単調に聴こえます。

ダイナミックレンジの画像
音声編集ソフトIzotope RX-7に取り込んだ音楽の波形。デジタル化した音源は視覚化しながら波形を分析・改変できます。

またロックのアルバムで不自然に高い音圧の犠牲になるのがドラムで、コンプレッションの多用によってシンバルやスネアの音が潰れたような音になります。こうした歪な音を体験したことがある方は、かなり多いのではないでしょうか。

さらに大音量が絶え間なく続く楽曲は「聞き疲れ」が発生します。好きなアーティストのアルバムはつい音量を上げて聴きたくなりますが、そうした行為を日常的に繰り返すことによって、音圧至上主義は身体へ深刻な影響を及ぼします。

今は世界的な「難聴の危機」

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多くの国で若者の難聴が増加している報告があります。イヤホンやヘッドホンの使用が定着し、それらで高い音圧の音源を大音量で長時間鑑賞することが一因とされています。

WHO(世界保健機関:外部サイト)は2022年、世界の12歳から35歳までの10億人以上が、「大音量の音楽」やその他の娯楽音などに長時間かつ過度に晒されることによって、「聴力を失うリスク」に直面していることを発表しました。

難聴を警告するWHOの写真
©︎2025 WHO.

適切なマスタリングが施された楽曲にはしっかりとした「音の強弱」があるため、ボリュームを上げて聴いても耳に優しいですが、音圧至上主義の楽曲を大きなボリュームで日常的に聴き続けることは、非常に危険な行為です。

内耳にある毛細胞(音を感じる細胞)が損傷すると一般的に「元に戻ることはない」と言われます。これが進行すると「難聴」になり、聴力低下が進行するのです。自分が普段どんな音量で聴いているのか、気をつけると良いでしょう。

ソルティ
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長時間音楽を鑑賞する際は”音量”に気をつけて下さいね。

まとめ

異様に高い音圧こそが作品の目指すところで、それが消費者に受け入れられたアルバムも確かに存在します。前述した洋楽アルバムはいずれも過去の大ヒット作です。ただし、過剰に大きな音量で聴けば”難聴のリスク”と直面します。

若者の難聴リスクのイメージ画像
Soraによるイメージ画像

ラウドネス・ウォーについて理解を深めた上で、その犠牲者になってしまったアルバムを好きになると、「大きな音で鳴らしたいのにできない」という厄介なジレンマに悩まされ続けることになります。これは深刻な問題です。

私は、海苔音源になっているアルバムや、高い音圧でリスニングに問題がある楽曲を市販の音声編集ソフトに取り込み、音圧を下げる取り組みを行っています。これは難聴にならないための”自己防衛”で、有益な手段だと思います。

その具体的な方法について、さらに音圧戦争の犠牲者になってしまったアルバムたちを救うかもしれない「AIによるダイナミクス復元の可能性」については、記事の後編にてじっくりとお伝えしています。どうぞお楽しみ下さい。

ソルティ
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最後までお読み頂き、ありがとうございました!

ソルティ92
この記事を書いた人
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あなたの知的好奇心を満足させる「AIと考えるブログ」著者・運営者|職歴:Webライター・書店員・レコード店員etc |当サイトの全記事にはクロスチェックを入れていますので、安心してお読みいただけます。

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