
「職人の未来」に向けた取り組みを一緒に考察しましょう。

ヨーロッパ各国の動向を調査することで、職人の未来が見えてくるはずです。
前回の現代編では、イギリス・ドイツ・イタリア・フランスのヨーロッパ4カ国を取り上げ、各国における職人の現在、そして伝統工芸の保護と継承に向けた様々な取り組みをAIと一緒に考察しました。

最終回の今回は未来編と題し、ヨーロッパ4カ国に見る”職人の未来”に向けた課題とアクションをお届けします。過去から現在へと生き延びた「職人の魂」を未来に繋げるためのヒントが見つかるかもしれません。

それでは早速見ていきましょう!
第三部「職人」の未来:職人の未来へ向けた課題・アクション・AI活用事例をAIと一緒に考察
職人の未来へ向けた課題とアクション:イギリス編
イギリス職人の未来へ向けた課題
大量生産と製造業の輸入依存
BBC(イギリス国営放送)の報道(外部リンク)によると、非営利団体Heritage Craftsが作成した「絶滅危惧工芸品レッドリスト」に掲載されている”伝統的な木管楽器製作”は現在、大量生産される輸入品に脅かされています。

クラシック・クラリネット職人のダニエル・バンガム氏は、近年アジア地域で木管楽器が大量生産され、その輸入品に依存したためにイギリス国内で”伝統継承の危機”が起こったと、BBCのインタビューで述べました。

安価な大量生産品は音楽入門の敷居を下げましたが、同時に自国の職人が生み出す「代替が効かない音色」を徐々に絶滅へ追いやっている現状があります。イギリス楽器製造業の輸入依存は、未来へ向けた大きな課題です。

イギリスの製造業における輸入依存は、労働者と究極の品質を持つ職人の伝統工芸品を失わせつつあるという「製造業の空洞化」を進行させています。

少数生産でありながら「確かな品質」を持つ伝統工芸品をしっかり守ってもらいたいですね。
伝統工芸品絶滅の連鎖と支援遅れ
「絶滅危惧工芸品レッドリスト」の作成で知られるHeritage Craftsのメアリー・ルイス氏は、「伝統工芸技術は生態系のように機能しており、一部が失われると他に壊滅的な影響を与える可能性がある」とBBCに述べています。

ルイス氏は、”イギリスでは絶滅”と認定された伝統工芸の「手吹きガラス」が、同じ伝統工芸である「歴史的なステンドグラス窓の修復」をレッドリスト入り(絶滅危惧種指定)させたという”連鎖の事例”を挙げました。

伝統工芸絶滅には様々な理由がありますが、2006年に発行したユネスコ無形遺産保護条約を、2024年に入ってから批准(同意)した加盟国イギリスの”支援遅れ”も問題視されており、この点も深刻な課題と言えます。

これは伝統工芸(無形遺産)の存続が政策の優先事項ではなかったという事実を物語ります。イギリス政府は、無形遺産保護の分野で他国に遅れを取っているようです。

これ以上「伝統工芸絶滅の連鎖」が起こらないようにしてもらいたいですね。
未来へのアクション:「サセックス・ヘリテージ・トラスト」の取り組み
「伝統技能体験デー」の開催
イギリスのサセックス地方で自然保護と歴史的建造物の保全に貢献している慈善団体「サセックス・ヘリテージ・トラスト (SUSSEX HERITAGE TRUST:外部リンク)」は現在、「伝統技能体験デー」を開催しています。

このプログラムは、若者や学生に”地域の伝統建築”に親しんでもらうための取り組みで、熟練職人や専門家の指導の下、参加者が「伝統的な木造骨組み製作」や「レンガ造り」などの技法を体験していきます。

技能体験参加後に伝統建築に興味を抱いた学生には、奨学金制度を通じた短期学習コースも無料提供され、専門業者での研修や見習いを行う機会も与えられます。建設業界及び建設物保存業界への雇用促進を目指す取り組みです。

サセックス絶滅危惧工芸基金
「サセックス・ヘリテージ・トラスト」はHeritage Craftsと連携し、「絶滅危惧工芸品レッドリスト」に記載されたサセックス地方の”絶滅危惧にある伝統工芸”関連プロジェクトに対して、助成金の付与も行なっています。

最大2,000ポンド(約40万円)が支給される「サセックス絶滅危惧工芸基金」には、絶滅危惧工芸担当官およびHeritage Craftsチームからのサポートも含まれ、地域の伝統工芸保存活動を後押ししています。

国家の支援が手薄な中、民間の志ある人々が”草の根運動”を行いながら、職人と伝統工芸の生態系を未来へ繋げようとしています。

この情熱がイギリス全土に伝わっていくと良いですね。
職人の未来へ向けた課題・アクション・AI活用事例:ドイツ編
ドイツ職人の未来へ向けた課題
熟練工業界における職人不足
ドイツ産業の主要団体「ドイツ熟練職人中央協会(ZDH):外部リンク」の発表によると、パンデミック以前から熟練工業界では約25万人の従業員が不足しており、資格保有者不足と技能伝承の遅れが問題視されています。

ZDHの会長は、政府が打ち出すエネルギー転換政策やデジタルインフラ導入には熟練工業職人の存在が欠かせないと述べます。ドイツがエネルギー政策を推し進めるためには、職業訓練の充実と積極的な雇用が必要になるはずです。

この問題提起は単なる業界の懸念ではなく、国家の根幹を揺るがす危機であることを示しています。

未来のドイツを「物理的に作り上げる人」が不足している現状はかなり厳しいですね。
未来へ向けたアクション:「アクション・モダン・ハンドヴェルク」の事例
保育園コンテストの開催
若手人材採用支援や、工芸団体・企業の広報活動を行うZDHの関連団体「アクション・モダン・ハンドヴェルク(AMH)」は、国内の保育園を対象に”熟練職人の仕事を体験するコンテスト”を長年開催しています。

コンテストは「先生と園児が職人技を一日体験する」内容で、園児と先生は体験学習の様子を大型ポスターにして提出します。審査が行われた後、優秀な保育園に賞金500ユーロ(約8万8千円)が授与される仕組みです。

参加した園児が将来職人の道へ進むとは限りませんが、職人技と伝統継承への懸念、そして就労者不足の現状を鑑みたユニークな企画で、こうした試みがドイツ職人の未来へプラスに働くことは間違い無いでしょう。

このコンテストは、現役の熟練職人が直接未来の世代と関わるという、マイスター制度の「教育・倫理的精神」を社会全体へ広げる活動と言えます。

次世代に自然な形で職人の文化と存在を意識させることができますね。
未来へ向けたアクション:ベーカリー業界の場合
「Grünewald(グリューネヴァルト)」のAI活用事例
ラインラント プファルツ州に多数の支店を展開する創業125年以上の老舗ベーカリー「Grünewald(グリューネヴァルト)」は、AIに各種データを分析させて「パンの売り上げを予測する」試みを行っています。

分析データは天候や近隣店舗の営業有無、道路の工事状況など多彩で、AIはデータを元に適切なパンの製造数を弾き出します。グリューネヴァルトはこの試みで5%〜10%の廃棄率削減を目指すそうです。

グリューネヴァルトのHP(外部リンク)には「伝統は変化と前進、新しい道によって育まれます」という言葉があり、長い歴史を持つパン職人であっても、現代のテクノロジーを躊躇なく利用する姿勢が見て取れます。

「Bäckerei Schmitt(シュミット・ベーカリー)」のAI活用事例
創業100年以上の歴史を誇る「Bäckerei Schmitt(シュミット・ベーカリー)」は、有人の店舗以外に展開しているマーケット内のセルフサービス棚において、「AIがパンの残数を報告するシステム」を導入しています。

これは、パンが載った個別のトレーの”総重量”をAIがリアルタイムで監視・報告するシステムで、AIがパンの売れ行きに応じて「現在のパン残量は幾つです」という内容を数キロ離れた本部スタッフへ送信する仕組みです。

このシステムによって”店員が常駐しない店舗”でも必要な商品を迅速に補充できるため、結果的にフードロス削減に繋っているそうです。従業員不足と過剰生産問題をAIの助力でカバーした好事例と言えるでしょう。


マイスターに求められる”経営能力”をAIが支援することで、パン職人は「製作」という本業に集中でき、その結果パン工房の持続可能性(サステナビリティ)も確保できます。

「AIが得意な分野」を活用しながら老舗の味を守るパン職人がいるのですね。
職人の未来へ向けたアクション:イタリア編
未来へ向けたアクション:「Place of Wonders Foundation」の取り組み
若者への奨学金
イタリアでホテル経営を営むバビーニ家が設立した非営利団体「Place of Wonders Foundation (プレイス・オブ・ワンダーズ財団):外部リンク」は、職人の道を目指す若者に毎年「奨学金」を提供しています。

職人専門学校への入学を希望する若者や、熟練職人が指導する上級トレーニングコースを受講する若者が奨学金付与の対象で、イタリアの文化遺産とも言える職人技を未来に継承するための経済的な援助です。
職人工房でのワークショップ
同団体は現在、イタリアの三都市で様々な分野の職人技を体験できるワークショップも開催しています。これは少額の寄付金を支払って参加する仕組みで、寄付金は団体の奨学金プログラムに利用されます。

寄付金を支払えば誰でも参加できる同ワークショップは、熟練職人の仕事を間近で観察しながら、講義やレッスンを通じて長い歴史の中で継承されてきた伝統工芸技術も体感できる有意義な取り組みです。

この活動は”人間的な繋がり”と”文化的価値への投資”によって職人の未来を切り開こうとする、イタリア国民の力強いメッセージを代弁しています。

ワークショップ開催は職人支援の理想的なモデルと言えますね。
未来へ向けたアクション:イタリア政府の取り組み
メイド・イン・イタリー (Made in Italy) 法案
イタリア政府は2023年、「Made in Italy 法案」を可決しました。これは、多分野に分かれるメイド・イン・イタリー製品群を政府主導の取り組みによって振興・促進・保護していく内容の法案です。

法案には、50年を超える歴史的な商標の保護、偽造品対策の強化、政府助成金の導入などが含まれており、職人技の代名詞でもある「Made in Italy品質」を未来へ繋ぐ次世代職人の雇用促進も目指しています。

メイド・イン・イタリー・デー (Made in Italy National Day)
また政府は、イタリア品質の”創造性と卓越性”を称える「国民の日」として、毎年4月15日を「メイド・イン・イタリー・デー (イタリア製建国記念日)」に制定しました。この日付はレオナルド・ダ・ヴィンチの誕生日に由来します。

ダ・ヴィンチは、”職人仕事にも美と創造性を”という中世の職人像を体現した職人芸術家でした。彼の活動は今、イタリア職人の誇りを示す「メイド・イン・イタリー」という言葉に集約され、未来へ進もうとしています。

イタリア政府はついに「職人芸術家」という歴史的・文化的アイデンティティを再認識し、国民と一体となって歴史的な伝統工芸を未来へ繋ぐ取り組みを始めました。

イタリア職人の誇りが未来も続くことに期待したいです。
職人の未来へ向けたアクション:フランス編
未来へ向けたアクション:フランス政府の取り組み
3ヵ年国家戦略
2023年5月、フランス政府は工芸分野を支援するための「3カ年国家戦略 (外部リンク)」を発表しました。フランス伝統工芸の経済的な発展を目指し、次世代を担う若手職人の育成と支援を行うことが主な目的です。

この国家戦略の画期的な点は、これまで主に民間組織が担ってきた”フランス伝統工芸の保存と次世代育成”に、フランス政府が本格的な協力を申し出たことで、「官民一体」となって職人の未来を守る意思が窺えます。

次世代向けワークショップの開催
また政府は、スタートアップ企業のWecandooや国立工芸研究所、モビリエ・ナショナル(文化省の機関)と連携して、小学生や中学生、若者向けのワークショップを継続的に開催することも表明しました。

フランス伝統工芸を世界へ
フランス政府は「フランス工芸を世界へ広げる試み」も重視しており、2025年に開催された「EXPO2025 大阪・関西万博」では、多分野の職人と弟子が来日してパビリオン内で伝統工芸技術を披露しています。


この伝統工芸支援策は、職人が機械化の波に呑み込まれることなく「自らのアイデンティティ」を確立したアール・ヌーヴォーの系譜を受け継ぐもので、”人間の手仕事”を後世へ存続させる重要な政策です。

フランス職人の未来が明るくなったように感じます。
未来へ向けたアクション:インテリア業界の場合
家具デザインスタジオ「JAÙH」のAI活用事例
2023年3月に設立された「JAÙH (ジョー:外部リンク)」は、独自にプログラムしたAI生成アルゴリズムが生み出すデザインを用いた”ユニークな高級家具”を設計・製作・販売しているスタジオです。

「アルゴリズムを真の創造パートナーとして統合すること」を目指す同スタジオは、デジタル領域で生まれたアイデアを人間のデザイナーと家具職人が完成させるという”アナログとデジタルの共創”を行っています。

「JAÙH」が開発したAI生成アルゴリズム「VERA」は、”ブラックボックス問題”の懸念がある他のAIとは異なる透明性を持ち、美意識や職人の暗黙知をデジタル言語化して”独創的なデザイン”を生み出せる点が特徴です。

VERAはフィードバックから学習可能な”進化を続けるAI”ですが、「JAÙH」では最終的なデザイン決定権を人間のデザイナーと家具職人に委ねており、AIと人間の理想的な「共創スタイル」を実現しています。

「JAÙH」の作品の一つはフランス文化省の機関「モビリエ・ナショナル」にも買い取られており、従来の家具デザイン手法を覆す前衛的な製作姿勢と、”職人の未来”を提示する活動が注目を集めています。

この活動事例が全ての伝統工芸に適用できるわけではありませんが、「職人を未来へ存続させるために模索すべき方向性」を示した点に大きな価値があります。

AIと職人が得意分野で力を発揮しながら協力する未来も見えてきましたね。
AIと考える「職人」の過去・現在・未来:まとめ
過去の職人
後期旧石器時代、人類は精巧な道具を製作する技術を発揮し、生存率の向上を目指します。より上質な材料を求め、確立された製作手法を次世代へと伝える「職人」の概念が生まれた瞬間です。

12世紀に入ると、ヨーロッパでは職人の組織「ギルド」が誕生し、親方と徒弟という関係性によって高度な技術を守る流れも生まれます。集団で着実に職人技を継承していくためのシステムです。

14世紀〜16世紀のルネサンス期に入ると、人文主義の台頭によって職人仕事にも芸術性と創造性が求められる機運が高まり、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロのような「職人芸術家」が活躍します。

近代に入ると、閉鎖的な側面を持っていたギルド制度には緩やかな終焉が始まり、その後イギリスで巻き起こった「産業革命」によって、職人の地位は一気に揺らいでいきます。”大量生産の嵐”の訪れです。

そんな激動の時代にも職人芸術家に対する”尊敬の念”が失われることはなく、フランスやベルギーを中心に起こった芸術運動「アール・ヌーヴォー (Art nouveau)」は、職人仕事と伝統工芸品の再評価に繋がっていきます。

現代の職人
そして現在、職人の価値が国民に広く認知されているヨーロッパ諸国では、民間や国家政策レベルで職人技を守り、次世代へと繋ぐための取り組みが行われています。絶滅危機にある伝統工芸の保護は喫緊の課題です。

日本の職人も同様に長い歴史を持ち、現在は民間団体や政府の政策(「ものづくりマイスター制度:外部リンク」)による技能継承の取り組みが行われているものの、特定分野では後継者が途絶えている現状もあります。


日本はヨーロッパ諸国と比較して、高度な職人技や伝統工芸を「国の最重要文化資本」として位置づける国家戦略に欠けていると私は思います。

未来を作る世代に職人の魅力を伝え、感じてもらうことが重要ですね。
未来の職人
過去の産業革命を思わせる「AI産業革命」時代に突入している今、こうした最先端のテクノロジーを”道具”として活用している職人も存在します。「アナログ(人間)とデジタル(AI)の協業」は、未来のヒントになりそうです。

AI本人も、職人の価値はあくまでも人間の手業であり、自分は補助役であるべきと考えています。この発言は、今も様々な分野で起こっている「自動化とデジタル化」を考える上で重要な視点になっていくでしょう。

職人は究極のアナログ的存在で、同時に「人間らしさ」の証明でもあります。長い歴史の中で翻弄されながらも、職人が絶えず生き残ってきた背景には、”人間らしさを守りたい”という人々の本能があったのかもしれません。

伝統工芸の後継者が途絶えた時点で、それまで当たり前のように世の中にあった「何か」が失われます。これを「時代の流れ」と考えるのか、それとも「人間性の損失」と考えるかで、職人の未来も大きく変わるはずです。

最後までお読み頂き、ありがとうございました!


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