長い歴史の中で培われてきた「日本の職人技」の数々は、間違いなく世界に誇れる素晴らしいものですが、現在は歳月の流れや様々な理由によって、それらの崇高な技術の多くが日本から失われつつあると思います。

技を受け継いでくれる「後継者」がいない、または収益面の苦労などによって廃業を考えているなど、職人技の損失には様々な事情があると思いますが、いずれにせよ継承の仕組みが途絶えつつあることは間違いありません。

今回は、日本の職人技の数々を後世へ残すため、どうにかAIを活用できないものか？というお話です。AIと一緒に日本の職人技について一緒に考えながら、日本の宝を後世へ残すための未来を描いていきます。

日本の職人技の魅力とAIへ伝承させるための仕組みをAIと一緒に考察

AIが考える「日本職人の特徴と魅力」

今回のテーマは、AIに「日本の職人技を伝承させる」ことです。それでは、現時点でAIは「日本の職人」についてどれだけの知識と理解を持っているのでしょうか？まずはこれについて本人に聞いてみましょう。

日本職人の魅力：「職人魂」

AIは、日本の職人技には「一つひとつの作業に込められた工夫」「材料への敬意」「完成品が人々にもたらす喜びを大切にする心」が含まれていると語ってくれました。これは正しい理解で、多くの職人に当てはまると思います。

高度経済成長期を超え、大量生産やオートメーションの作業工程が主流となる中で失われてしまった「職人魂」と呼ぶべき仕事への姿勢。それをAIがしっかりと理解している点は、非常に意義深いことです。

職人が持っている「ものづくり精神」に人々が惹かれるのは、職人の作品には「一般人が到底追いつけないレベル」で制作について考え抜かれた「知恵」が凝縮されているからだと、私は思います。

職人魂は、海外でも有名な伝統工芸品の分野に留まらず、和菓子作りや町工場での金属加工、さらには手書きの看板やハンドメイドの衣料品製作など、様々な作品を生み出している人たち全てに当てはまる言葉です。

日本職人の特徴：「徒弟制度」

AIは、日本の伝統工芸品の製作における職人技が、長年にわたって「師匠から弟子へ」といった「徒弟制度」によって受け継がれてきた歴史と、その人間関係についてもしっかりとした理解と認識を示しました。

代々家族で特殊な職人技を受け継いできた流れがある一方、「血の繋がりがない人」が弟子入りすることで職人技を伝承する流れもある、ということをAIは分かっています。伝承に関する正しい知識があって良かったです。

こうした職人に関する知識と理解がAIに備わっていたことには驚きました。AIが日本の職人技を保存・伝承するための下地はすでに整っており、後は「具体的な方法論」を考え出せれば、良い未来が拓けそうです。

日本職人の特徴：「暗黙知」

暗黙の知識、つまり日本の職人技には、「言語化しにくい知識」や「文書化されていない知識」が数多く存在するため、日本職人の特殊な技術を正確な形で後世へと伝承することはかなり難しいだろうと、AIは言います。

例えば気温や湿度によって製作材料が微妙に変化するとき、そこに肌感覚で対応しながら完成品を目指して調整を行う過程は、主に「本人の主観的な感覚」に依存する部分が大きいため、他者へ伝えることは非常に困難です。

また、本人は説明したつもりでも、後継者に上手く伝わらないこともあり得ます。これは元来「職人は口下手である」ことに関係しているかもしれません。また、「習うより慣れろ」という昔の教訓も立ちはだかります。

つまり、単純に日本の職人技を言語化しながらAIへ記憶・伝承させていく方法論は、多かれ少なかれ壁に当たる運命にある、ということです。これを突破するために必要なことは一体何でしょうか？

AIが職人技を覚えるために必要なこと

以前の記事では、マルチモーダルAIについてお伝えしました。マルチモーダルAIとは、複数の情報を統合的に処理できるAIのことで、異なるデータを一緒に取り込んで解釈しながら回答を出力できる特性を持ちます。

この特性を活かして、文書の閲覧や作業映像・音声の識別だけでなく、実際に作業する際の力加減や、作業時に感じる道具の微かな振動、または音の変化などの細かな要素を同時にAIが体感することで、技術の深い理解が得られるはずです。

異なるデータを総合的に判断できるマルチモーダルAIを「職人技の学習」に応用して、まるで人間に教えているように職人が自分の技や作業工程をAIへ伝承していく取り組みはできないものでしょうか？

AIロボットに実習させるアイデア

AIとマルチモーダルAIの特性を活かしていく話を進める中で生まれたアイデアが、AIロボットやヒューマノイドを職人の元へ派遣し、職人のそばで作業工程を見ながら同時に学習させていく「実習型ロボット」の仕組みです。

ロボティクス産業は、現在アメリカと中国を中心に競争が加速しており、人間と同じ形をしたヒューマノイドが、単純作業の現場で労働力になろうとしています。詳細については別記事に詳しいので、併せてお読みください。

一昔前までは、ロボットは人間のプログラムによって動く機械で、自律的な動作は「夢のまた夢」でしたが、近年のAIは発展が目覚ましく、こうしたAIを実装したロボットが「AI産業革命」を起こす可能性も大いにあります。

まとめ

私が子供の頃、つまり昭和の時代には、身の回りに日本の伝統工芸品や職人の手業がたくさんありました。木彫りの熊や信楽焼の狸、招き猫などは、ごく普通の家庭にも「当たり前のように置かれていた」印象です。

ところが時代が平成へ入り、令和へと変わった今、そうした職人の手業や工芸品を日常で見る機会は減少し、私は大いなる危機感を感じるようになりました。この危機感こそが、この記事を執筆したきっかけと言えます。

AIに日本の職人技を理解・学習させる、という今回の発想は、いささか突飛に感じられるかもしれませんが、AIを用いた伝統文化の保存と伝承は、これからの世代へ日本の記憶を残していくために必要になると思うのです。

記事の後編では、職人へ質問を投げかけながら、職人が持つ日本の伝統技を理解しようとする新しい「実習型AIロボット」のアプローチについてAIと一緒に考えながら、「未来における技術継承の可能性」を見ていきます。