音圧戦争(ラウドネス・ウォー)について教えて下さい。
この現象はCDやデジタル音楽時代に顕著になり、音楽がラジオやストリーミングで再生される際に、他の曲よりも大きく聞こえることを目的として行われてきました。
オアシスの再結成で盛り上がる今、彼らの名前を聞いて思い出すのが、90年代から2000年代にかけて加速度を高めていった「音圧戦争(ラウドネス・ウォー)」です。
この時代の洋楽アルバムは基本的に音圧が高く、常に0db(デシベル)付近に波形が漂う「海苔波形」になっていることが特徴で、非常にうるさく聴こえます。
最も顕著な例としては、オアシスの『モーニング・グローリー』やレッチリの『カリフォルニケイション』、メタリカの『デス・マグネティック』があります。
これらのアルバムは一般的に「ラウドネス・ウォーの犠牲者」と呼ばれています。今回はこの音圧戦争の現在、そして問題点について迫っていくお話です。
それでは早速見ていきましょう!
ラウドネス・ウォーの背景
ラウドネス・ウォーは主に音楽制作やマスタリングの分野で使われる用語で、音楽の音量を過度に上げて、より大きく聞こえるようにする競争のことを指します。
ラウドネス・ウォーが世界的に問題視されるようになったのは90年代後半からですが、実は1940年代から「他の楽曲よりも目立つため」に採用されてきた手法です。
音量を大きくすることで、リスナーにとってよりインパクトが強く「印象的な曲」に感じさせる効果がある、という考え方が「音圧上げ」の背景にはあります。
チャートで上位を目指すためには、そのアーティストを知らない人にも振り向いてもらう必要があり、その施策として常套手段化していったのが音量・音圧上げです。
各社が「より大きな音」を追求するあまり、競争・戦争状態になったのですね。
音圧戦争は何が悪い?
0db付近まで音が詰め込まれた海苔音源には、一体どのような弊害が生まれるのでしょうか?話の中でAIが挙げた問題点は、下記の3項目です。
音の強弱や微妙なニュアンスが失われ、音楽が単調に感じられる。
常に大音量で再生される音楽は、長時間聴くと疲れることがある。
過度なコンプレッションによって音質が犠牲になる。
ダイナミックレンジが広い音楽は、各楽器のアンサンブルを空気感と一緒に伝えますが、反対にダイナミックレンジが狭いと、全ての音の主張が激しくなります。
ロックのアルバムで特に音圧上げの犠牲になるのがドラムで、強弱が消えることでシンバル音やスネアの音がぎこちなくなり、潰れてグチャグチャな音になることが多いです。
そうした音を意図して制作した場合ももちろんあるでしょうが、いずれにせよ大音量が絶え間なく続くこれらの楽曲は「聞き疲れ」が発生します。私も体験済みです。
世界的な難聴の危機
ラウドネス・ウォーに「身体的な悪影響」はあるのでしょうか?
多くの国で若者の難聴が増加している報告があります。ラウドネス・ウォーやイヤホン、ヘッドホンの使用に関連した大音量の音楽鑑賞がその一因とされています。
WHO(世界保健機関)は2019年、若者を中心に11億人もの人々が「難聴のリスク」に曝されていると報告しました。原因は大音量での音楽鑑賞です。
適切なマスタリングが施された楽曲には「音の強弱」があるため耳に優しいですが、常に音圧が高い楽曲を過度に大きなボリュームで聴き続けることは、非常に危険です。
内耳にある毛細胞(音を感じる細胞)が損傷すると、一般的に元に戻ることはないと言われています。これが進行すると難聴になり、聴力低下が進行するのです。
長時間音楽を鑑賞する際には、聴き方に気を付けることが必要になりますね。
私は音圧戦争が過激になってきた90年代中頃にレコード店で働いていましたが、その時点で周囲の人間を含め、音圧の変化に気付いた人はいなかったと記憶しています。
リスナーが知らないうちに様々なアルバムで徐々に音圧が高められ、その傾向は一時沈静化したものの、ある時期から再び再燃して現在に至っている、という印象です。
ラウドネス・ウォーが世界的な問題になってから自分も音楽の聴き方に気を付けるようにしましたが、この時代に多少耳を痛めてしまったのではないかと感じています。
音圧戦争は続く
名だたるエンジニアたちが声明を発表して非難し、音楽愛好家のユーザーからも度々指摘を受け続けているラウドネス・ウォーは、実は今も終わる気配を見せていません。
放送局や配信サイトが自動的に音量を揃える、という取り組みも行われていますが、消費者のボリューム調整までコントロールすることはできないため、危険が潜んでいます。
音圧至上主義の音源を大音量で長く聴き続けることで、身体、特に耳には間違いなくダメージが蓄積していきます。これは音楽業界の由々しき事態です。
音圧を高めることで瞬時にリスナーの注意を引きつける効果があるため、現在も商業的な観点から、音量を大きくするアプローチが続けられています。
最も好ましい解決策は、アーティスト側が音圧の高いアルバムを「再マスタリング」した状態で販売することで、実際メタリカはiTunesストア向けにそれを行っています。
CD版『デス・マグネティック』は聴くに耐えない高い音圧を持ち、随所で0db超えの「クリッピング」が発生して、ファンからのクレームが付いた経緯を持ちます。
ところが現在iTunesストアで購入できる同タイトルは、再マスタリングによって当時のCD版よりも格段にマイルドな音圧に抑えられており、耳を傷めずに聴くことができます。
ただしこれは稀な例で、未だに音圧が高いアルバムは数多く出回っています。
ラウドネス・ウォーから身を守るために
異様に高い音圧こそが作品の目指すところで、それが消費者に受け入れられたというアルバムも確かに存在します。前述した洋楽3作品はいずれも過去の大ヒット作です。
アーティストが好きだから聴いてしまうけど、一定以上の音量で聴くと耳へのダメージが計り知れない。そうなるとボリュームを絞って小さな音量で聴くしかない。
でもロックでアグレッシブな気持ちにさせてくれるアルバムは、小さい音量で聴くとおとなしくなって雰囲気が違う。一定以上の音量で迫力あるリスニング体験をしたい・・。
音圧が高いアルバムを末永く愛聴できる方法はないのでしょうか?
ラウドネス・ウォーについて理解を深めた上で、その犠牲者になってしまったアルバムを好きになると、そうしたジレンマに悩まされ続けることになります。
音声編集ソフトによる調整
そんな中、私は音声編集ソフトで「問題がある楽曲」の音圧をある程度までコントロールできることを知りました。今では「自分だけのリマスタリング」が趣味です。
プロのミュージシャンがスタジオで使っている高額な音声編集ソフトを用いる必要はありません。一般人でも手の届く価格帯のソフトでも、十分に音圧を調整できます。
その体験談について、そして音圧戦争の犠牲者を救う画期的なシステムになるかもしれない「AIによるダイナミクス復元の可能性」については、後編でお伝えしていきます。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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